フレイル・サルコペニアを一括で評価できる表
フレイル・サルコペニアは臨床上重要な意義を持っていることはわかりますが、なかなか実臨床で評価しようとすると、被っている評価もあり、それぞれで評価しようとすると思ったより時間がかかってしまうことがしばしばあります。
そこで、実臨床で評価するときに便利かもしれない評価表を作ってみました。
そもそものフレイル・サルコペニアの概念や診断基準も併せて、ご覧ください。
【フレイル・サルコペニア】
どちらも高齢者の能力低下を表す言葉だが、サルコペニアは筋肉に特化した考え方であることに対し、フレイルは広く高齢者の脆弱性を表す考え方である。
【フレイルとは】
フレイルは虚弱(frailty)という言葉から発し、老年症候群として日本老年医学界からステートメントとして発せられたことで日本においても広く浸透した。3大要素として身体的フレイル、認知的フレイル、社会的フレイルが挙げられ、これらを包括する形で高齢者のフレイルを考えることが多い。
フレイルは次のような加齢に伴う心身の変化と社会的、環境的な要因が合わさることにより起こる。
・加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少/身体機能の低下/筋力の低下/認知機能の低下/易疲労性や活力の低下/慢性的な疾患(呼吸器疾患、心血管疾患など)/体重減少/低栄養/収入、教育歴、家族構成など。
フレイルはこの図のように悪循環を繰り返しながら進行していくことが多い。
一般的に高齢者の虚弱状態を加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態と理解されることも多いが、このフレイルの概念には、しかるべき介入により再び健常な状態にもどるという可逆性が含まれている。フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切に介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待されている。
日本では、2016年度に国立長寿医療研究センターで行われたフレイルの進行に関わる要因に関する研究によるフレイル評価基準は以下の表のとおり。5つの項目のうち、3つ以上該当する場合はフレイル、1~2つ該当する場合はプレフレイル、いずれにも該当しない場合は健常または頑健とする。
【サルコペニアとは】
主に加齢に伴う筋肉量減少に対してサルコペニア(ギリシャ語でsarx:肉、penia:欠如)という造語が作られた。サルコペニアの診断基準には世界共通のものはなく、骨格が国や人種によって様々であるため様々なガイドラインと診断基準が存在する。
こちらはAWGSの診断基準。
低骨格筋量は必須で、それに加えて歩行速度または握力の低下のあるものをサルコペニアとしている。
【ダイナぺニア】
筋肉量減少がないが筋力低下がある高齢者をダイナぺニアと呼んではどうかとする意見がある。機序としては筋肉の質としての障害(ミトコンドリアの機能低下やグリコーゲン低下など)と神経支配の障害の二つが考えられている。サルコペニアに進展する可能性が高いとされ、高齢者ではダイナぺニアの段階で介入を考えることが必要でないかと考えられている。
【サルコペニア肥満】
加齢に伴う主要な身体組織変化であるサルコペニアに肥満が合併した病態であり、インスリン抵抗性、炎症、酸化ストレスなどが肥満とサルコペニアを結びつける機序とされる。身体機能障害を伴うだけでなく、代謝障害や動脈硬化が進展しており、心血管リスクが高いと考えられる。診断基準はなく、今後の設定が待たれている。
↓ここから本題です!!!↓
【フレイル・サルコペニア評価表】
上記のように、フレイル・サルコペニアは臨床上重要な意義を持っていることはわかりますが、なかなか実臨床で評価しようとすると、被っている評価もあり、それぞれで評価しようとすると思ったより時間がかかってしまうことがしばしばあります。
そこで、こんなものを作ってみました。
フレイル | サルコペニア | |||||
質問・評価 | 結果 | 点数 | 結果 | 点数 | ||
フレイルの項目該当≧3でフレイル/1-2でプレフレイル/0で健常 | ||||||
問診 | 6ヶ月で意図しない体重減少が2-3kg | 減ってる | 1 | |||
ここ2週間わけもなく疲れた | 疲れてる | 1 | ||||
軽い運動・体操を1週間に1度もしてない | してない | 1 | ||||
筋力 | 握力 | 男性<26kg 女性<18kg |
1 | 男性<28kg 女性<18kg |
低筋力 | |
身体機能 | 歩行速度 | 5m >5秒 | 1 | 6m >6秒 | 低身体機能 | |
SPPB | 4m歩行 | <4.82 | 4 | |||
4.82-6.20 | 3 | |||||
6.21-8.70 | 2 | |||||
>8.7 | 1 | |||||
不可 | 0 | |||||
マン肢位 | 10秒未満 | 0 | ||||
10秒以上 | 1 | |||||
セミタンデム | 10秒未満 | 0 | ||||
10秒以上 | 1 | |||||
タンデム | 10秒未満 | 0 | ||||
10秒以上 | 2 | |||||
5回椅子立ち上がり | ≦11.19 | 4 | ||||
11.20-13.69 | 3 | |||||
13.70-16.69 | 2 | |||||
>16.7 | 1 | |||||
>60秒.不可 | 0 | |||||
合計点数≦9 | 低身体機能 | |||||
5回椅子立ち上がり | ≧12秒 | 低身体機能 | ||||
骨格筋量 | 下腿周囲長 | 男性<34cm 女性<33cm |
低骨格筋量疑い | |||
SMI(BIA) | <7.0kg/㎡ <5.7kg/㎡ |
低骨格筋量 | ||||
SMI(DXA) | <7.0kg/㎡ <5.4kg/㎡ |
低骨格筋量 |
フレイル・サルコペニアの評価表を合体させ、それぞれの被っている評価をなるべく近い場所に配置した表を作成してみました。
上から順番に評価するとSPPBの評価が本来の通りにならないので、ややこしいですが本来通り立位⇒歩行⇒起立、の順で評価してください。
ご覧いただきありがとうございました。
今日も効率的に介入できますように。
【参考文献】
・中村謙介 ナイスバルク!急性期のリハビリテーションと栄養療法 2019
・小原克彦 サルコペニア肥満 日老医誌 2014;51:99―108 2014
・健康長寿ネット
・PT-OT-ST.NET