離床にはガンマ計算が必要
☆この記事の要約☆
・離床基準の中に、昇圧剤の投与量の基準がある
・投与量はシリンジポンプに表示されている数字だけは判断できない
・判断するために、ガンマ計算が必要
ガンマ計算をご存じですか?
ガンマ計算は、体重当たりの薬剤の投与量を計算するために使用するものです。
ICUでの理学療法では、患者を離床させるかさせないかを判断するために、循環動態が安定しているかどうかを把握する必要があります。
循環動態が不安定なため、昇圧剤を投与されている場面にはよく遭遇しますが、その際にこの ”ガンマ計算” を知っておくと非常に役立ちます。
これを理解していただくために、
①離床しないほうがよい昇圧剤の流量
②ガンマ計算とは
③ガンマ計算の方法
の4つの章に分けて説明をします。
①離床しないほうがよい昇圧剤の流量
「集中医療における早期リハビリテーション 根拠に基づくエキスパートコンセンサス」※1に、以下のような記載があります
~~~~~~~~~~~~~~~~~
治療の安全基準:絶対禁忌
・ドパミン>10㎍/kg/min
・ノルアドレナリン>0.1㎍/kg/min
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ドパミン>10㎍/kg/min」「ノルアドレナリン>0.1㎍/kg/min」は、数字が具体的なので頑張れば計算できそうな気がします。
ですがよく考えてください。
シリンジポンプで表示されている単位は
”ml/h”
ではないでしょうか?
ml/h と ㎍/kg/min 。。。。
私も初めて見たときはわけがわかりませんでした。
だって単位全部ちがうやん、、、
でも大丈夫です。
その時に必要な計算方法が 「ガンマ計算」 なんです!!
②ガンマ計算とは
ガンマ(γ)計算とは、体重当たりの薬剤の投与量を計算するために用います。
なぜこれを使うかというと、例えば同じ種類の薬でも体重30kgの人への投与量と体重90kgの人への投与量は異なるので、体重当たりの投与量を決める必要があるからです。
式は、 ”1γ=1[㎍/kg/min]” です。
とっつきにくいですが、これをわかりやすくしていきます。
1γ=1×体重[㎍/min] (体重を掛けた)
=1×体重÷1000[mg/min] (㎍をmgに変換した)
=1×体重÷1000×60[mg/h] (min分をh時間に変換した)
=0.06×体重[mg/h] (式を整理)
1γ=0.06×体重mg/h
となりました。
30kgの人の1γは、0.06×30で 1.8mg/h です。
90kgの人の1γは、0.06×90で 5.4mg/h です。
これで、 mg/h の単位まで変換することができました。
昇圧剤を投与しているシリンジの表示は ml/h なのでもう一歩です。
③ガンマ計算の方法
ここまでで 1γ=0.06×体重mg/h まで式を簡単にできました。
臨床で品用される200mlの製品中に600mgドパミンが配合されている薬剤でガンマを計算します。
先の②での計算の通り、30kgの人の1γは 1.8mg/h なので、
体重30kgの患者さんに1ガンマでドパミンを投与しようとすると
1γ=1.8mg/h
=1.8÷600mg×200ml (200mlの製品中に600mgのドパミンなので)
=0.6ml/h
となります。
逆に言うと、体重30kgの人に0.6ml/hで「200mlの製品中に600mgのドパミン」を投与すると、1γで投与していることになります。
先の記載では
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
治療の安全基準:絶対禁忌
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ですので、1ガンマでは絶対禁忌ではない、ということになります。
ガンマ計算なんとなく分かってこられましたか?
ここからは、臨床で使えるようにまとめていきます。
めんどくさい人は①~③をみなくても、これだけ見るだけでもいいかもしれません(笑)。
深く知りたい方は、①~③をご覧ください。
以下が一覧表です。
絶対禁忌にあたるガンマの値を赤字にしています。
・ドパミン塩酸塩 200ml中600mg配合の場合
ガンマ | 流量(ml/h) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | ||
体重(kg) | 20 | 2.5 | 5.0 | 7.5 | 10.0 | 12.5 | 15.0 | 17.5 | 20.0 | 22.5 | 25.0 |
30 | 1.7 | 3.3 | 5.0 | 6.7 | 8.3 | 10.0 | 11.7 | 13.3 | 15.0 | 16.7 | |
40 | 1.3 | 2.5 | 3.8 | 5.0 | 6.3 | 7.5 | 8.8 | 10.0 | 11.3 | 12.5 | |
50 | 1.0 | 2.0 | 3.0 | 4.0 | 5.0 | 6.0 | 7.0 | 8.0 | 9.0 | 10.0 | |
60 | 0.8 | 1.7 | 2.5 | 3.3 | 4.2 | 5.0 | 5.8 | 6.7 | 7.5 | 8.3 | |
70 | 0.7 | 1.4 | 2.1 | 2.9 | 3.6 | 4.3 | 5.0 | 5.7 | 6.4 | 7.1 | |
80 | 0.6 | 1.3 | 1.9 | 2.5 | 3.1 | 3.8 | 4.4 | 5.0 | 5.6 | 6.3 | |
90 | 0.6 | 1.1 | 1.7 | 2.2 | 2.8 | 3.3 | 3.9 | 4.4 | 5.0 | 5.6 | |
100 | 0.5 | 1.0 | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 | 3.5 | 4.0 | 4.5 | 5.0 |
※たまに200ml中に200mgのドパミンが配合されている製品を投与されていることもあるので、その場合はこの表で出てきたガンマの値を3で割ってください。
例:体重50kgの人に3ml/hで投与している⇒表では3ガンマだが、3で割るので1ガンマ。
・ノルアドレナリン6アンプル(6mg6ml)を43mlの生理食塩水に希釈している場合
(いわゆるノルアドレナリン6A組成)
ガンマ | 流量(ml/h) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | ||
体重(kg) | 20 | 0.10 | 0.20 | 0.30 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.70 | 0.80 | 0.90 | 1.00 |
30 | 0.07 | 0.13 | 0.20 | 0.27 | 0.33 | 0.40 | 0.47 | 0.53 | 0.60 | 0.67 | |
40 | 0.05 | 0.10 | 0.15 | 0.20 | 0.25 | 0.30 | 0.35 | 0.40 | 0.45 | 0.50 | |
50 | 0.04 | 0.08 | 0.12 | 0.16 | 0.20 | 0.24 | 0.28 | 0.32 | 0.36 | 0.40 | |
60 | 0.03 | 0.07 | 0.10 | 0.13 | 0.17 | 0.20 | 0.23 | 0.27 | 0.30 | 0.33 | |
70 | 0.03 | 0.06 | 0.09 | 0.11 | 0.14 | 0.17 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | 0.29 | |
80 | 0.03 | 0.05 | 0.08 | 0.10 | 0.13 | 0.15 | 0.18 | 0.20 | 0.23 | 0.25 | |
90 | 0.02 | 0.04 | 0.07 | 0.09 | 0.11 | 0.13 | 0.16 | 0.18 | 0.20 | 0.22 | |
100 | 0.02 | 0.04 | 0.06 | 0.08 | 0.10 | 0.12 | 0.14 | 0.16 | 0.18 | 0.20 |
※同じノルアドレナリンでも3アンプルを47mlに希釈しているものを投与している場合もあります。その場合はこの表で出てきたガンマの値を2で割ってください。
一見難しく感じますが、3日くらい使ってみると自然と身についてくると思います。
今日も安全に離床できますように。
お付き合いいただきありがとうございました。
※1)日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 24 No. 2
集中医療における早期リハビリテーション 根拠に基づくエキスパートコンセンサス